伊東 改めてお伺いしたいのですが,今の法学者はなぜ死刑廃止論に行かないのですか。
団藤 これには憤慨しているんですよ。いくじなしばっかりで,みんな根本問題を考えようとしない。ごくごく表面的な解釈論ばかりで。解釈論もなきゃならないけどね,腹の底から出る解釈でなきゃならない。アタマの中の解釈論ばっかりやっているから。いま東大法学部をはじめ,若い人にもっとがんばってほしいと思っているんですけどね。 『反骨のコツ』ではくり返し,刑法学者はいくじなしばっかりだと言われ,最高裁裁判官についてさえ「連中自身は,僕の入ったときは全くだめでね」と切り捨てられている。どうも,死刑廃止論に立たないことがそのような判断の基準のようだが,それなら,同書で「僕も教授在任中には,まだ廃止論にはなっていなかったんです」と書いているご自身の経験からも,もっと長い目で見てあげた方がよいように思うのだが。 しかし,教室で学生に死刑廃止論を講義しなかった刑法学の教授,判決において,たとえ少数意見としてでも,一度たりとも死刑反対を書かなかった裁判官が,退職後に,かつての彼と同じく振舞っている学者や裁判官を非難しののしる姿はあまり品のよいものではない。すくなくとも,賞賛すべきこととは思われない。 #
by kriminalisto
| 2007-12-13 23:40
| 日記・コラム・つぶやき
奇妙な表題だなと思いながら,手にとっては見なかった新書版の一冊だが,新聞の書評欄の記事につられて,通勤の電車とバスの中で目を通してみた。
その途中で,卒業生の一人から,「[年配の]学者の書いた本と言うと、大抵は説教や、自慢話が多いのですが(最近出た団藤先生の『反骨のコツ』はそうですね)」というような感想をもらったのだが,まあ,それは言い過ぎだろう。インタビュアで編者である伊東准教授とお二人で,気分よく話し込んでおられるだけのことなのだから。 それにしても,東大法学部教授,最高裁判所判事,東宮侍従といった経歴をたどった人が「反骨」の生き方を語るということの違和感は拭いがたいものがある。自分の国語力に自信をなくして『広辞苑』を引いてみると,やはり「反骨=権力に抵抗する気骨」という説明がある。すると,この「権力」というものの捉え方が違っているのだろうか。 #
by kriminalisto
| 2007-12-12 22:25
| 日記・コラム・つぶやき
今年の『犯罪白書』が公表されたようで,近日中にその現物を入手できるだろうから,それまで待ってもよいようなものなのだが──
各紙が伝えるところでは,今年の特集は「再犯者の実態と対策」のようだ。「犯罪の6割が再犯者によるもの」という見出しが躍っている。ちょっと読んでみると: 「犯罪者に占める再犯者の割合が約3割なのに、犯罪件数の約6割が再犯者によって行われていたことが分かり、再犯防止への取り組みの重要性を改めて浮き彫りにした。 再犯者に関する調査は法務総合研究所が実施した。対象は1948年から06年9月までの刑法上の罪などの確定者100万人。このうち、再犯者が占める割合は28.9%だったが、この100万人が犯した犯罪約168万件について見ると、57.7%が再犯者によるものだった。」(讀賣新聞) 再犯者問題の重要性はつとに指摘されていることで,僕の理解では,わが国の犯罪情勢の安定をもたらしている要素の中でも大きな一つが,再犯者問題の緩和──それはそれで,さまざまな段階でのディヴァージョンのシステムによる,犯罪者の起訴率の低さや刑罰の軽さ,したがって拘禁刑の適用される割合の少なさなどの結果なのだが──にあるのだが,そのわが国でも,問題はなお深刻だということなのだろう。 しかし,ここに挙げられている数字は何だかおかしい。その発生が知られた全犯罪を誰が犯したかを知る手立てはなく,検挙率はせいぜい30%程度(交通事犯を除いた刑法犯で)なのだから,どんな根拠で「犯罪の6割は再犯者によるもの」などといえるのだろうか。上の法務総合研究所の研究方法がそのとおりだとして,そこで窺われるのは,戦後のわが国において有罪が確定した合計100万人が犯した168万件の犯罪のうち,再犯者(100万人中の28万9千人)によるものが6割に近かったということに過ぎない。 いずれにしても,白書あるいは警察庁の統計が手に入った段階で,正確な検討作業が必要だろう。 #
by kriminalisto
| 2007-11-07 22:21
| 日記・コラム・つぶやき
来年度の学年暦を決める時期になって,今年もまたぞろ「15週問題」が吹き荒れた。
どこの大学も悩んでいるはずなのだが── 要するに大学における授業の質の問題であり,質を確保する全体としての授業時間の問題なのだ。2時間の授業を1コマとしてこれを15回で,専門科目では2単位,語学科目では1単位という「設置基準」の解釈を巡って,実際に15回の授業と1回の試験時間の配置を暦日に落とし込んだ提案に,猛然と異議が唱えられ,時には「当局による独断・押し付けである」との抗議が叫ばれる。 たしかに,「ハッピー・マンデー」のばら撒きや,複数大学を掛け持っている非常勤講師の不都合など,多くの困難を作り出している事情はあるのだが,しかし,教育というサービスの内容を惜しみ,いわば「上げ底」商品として提供することでお茶を濁そうという発想自体が情けないが,それを臆面も無くわめき立てることには,正直,理解ができない。それは大学の教員としての自身に対する背反行為ではないだろうか。 おそらく,近い将来には「2時間」問題が生じるだろう──現在はほとんど全ての大学で90分の授業を「設置基準」の2時間と見なしているが,そのような公認のごまかしがいつまで通用することか。外部からその是正を迫られたときの大騒ぎが,今から目に見えるような気がする。 それにつけても思い出すのは,われわれが大学に入った当時の時間割だ。朝8時から10時が第1限,10時から12時が第2限,1時間の昼休みがあって,授業は17時までだった。冬の朝の法経4番教室の寒かったこと,用務員が教室前方のだるまストーブに石炭を入れ,器用に火をつけていたことなど。 「大学の15分」という「慣習法」の説明を聴いたのも,2回生の4月,同じ法経4番教室での於保先生の民法総則の授業でだった。 ──すべてはあの「学園紛争」の以前のことである。 #
by kriminalisto
| 2007-10-28 00:36
| 日記・コラム・つぶやき
声をかけられて顔を上げると,思いがけない人物が立っていた。T君,相変わらずやせていたが,ノーネクタイのカッターシャツ姿で,にこやかに笑っていた。
勤務する大学の運動部のために新たに開設されたグラウンド等の完成を祝賀する式典の場。まだ真夏のものと変わらない太陽の照りつける中,スーツ姿の一団の中でのことだ。 聞けば彼はこのグラウンドに隣接する県立養護学校で教鞭をとっており,母校の運動部のための施設とはいえ,山林を伐採しての大規模な造成工事に不安を覚えて,大学の施設部局と交渉をもって来たのだという。幸い,彼の危惧したような事態は回避され,かえって,運動部の学生と養護学校生徒との交流の機運もできたりで,結果的には,喜ばしい状況が作られた,とのこと。祝賀会にも招待され,喜んで出席した,と。 具体的な経過を承知していなかったのだが,彼の話を聞きながら,本当にうれしかったのは,一つには,彼をはじめとして養護学校の関係者,あるいは地域の人々との誠実な協議と相互理解の手はずを,われわれの大学関係者が大切にしたことが確認できたことだ。 それともう一つ。T君が自分の天職を見つけ,充実した生活を築いていることを確認できたことだ。 もう10年ほども前のことだ。修士論文を提出したT君が,後期課程には進まないと言っている,と聞いて,研究科の役職にあった僕は彼と面談したのだった。今は亡きY教授の下で憲法を学び,研究者として世に出るための第一関門を通過した段階で,小学校教員になりたいという彼の願望を,しかも合格するかどうかわからぬ教員採用試験をこれから受けるのだという彼の言葉を,僕はあぶなかしげに聞き,後期課程へ進んで大学教員を目指した方がよくはないかと,説得しようとしたのだった── もちろん,説得は成功しなかった。 3・4年後になって,彼が同期のW君(当時はKG大学の民法の助教授になっていた)と結婚したことを知ったときには,「少なくとも大学教員の夫にはなったわけだ」,と密かに納得したことを思い出すが,このことは彼には言うまい。 別れ際,W君は元気かとの僕の言葉に,「実は今,二人目が出来まして」とT君は答えて,はにかんだ表情を見せた。 #
by kriminalisto
| 2007-09-05 23:51
| 日記・コラム・つぶやき
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