例年のこととはいえ,通り一遍の年賀の言葉とかき集められたタレント達のばか騒ぎが延々と続くと,ニュース番組が終わると同時にテレビのスイッチを切ることになるのだが,1月1日夜のNHK地球特派員スペシャル「地球マップ2007 “格差”と“競争”にどう立ち向かうか」(NHK BS1)は,例外的に,見応えがあった。グローバル化の歪みを視覚化した“地球マップ”を使いながら,手前勝手な「グローバリゼーション」の合言葉の下に強引に推し進められる国際的な収奪と国内での格差拡大の実態を描き出していた。姜尚中,伊藤洋一,江川紹子,榊原英資といった面々がイギリス,アメリカ,メキシコ,中国などの現状をレポートしながら,(もちろん多くの点に温度差を伴いつつ)この眼前の混乱をどう捉え,それにどう対処するかを論じていた。まさに,「勉強になった」が,同時に,もどかしい思いも残った。
番組では触れられなかったが,グローバリゼーションによって生まれた“格差”と“競争”に対する,もっとも尖鋭な形での反応が犯罪だということも指摘されるべきだろう。 貿易市場の拡大が経済法則からする必然であり,その地球規模化は早晩予想されていたことであるとしても,それに犯罪現象の拡大が随伴するとの予測は,これまで語られてこなかった。 しかし現実に生じているのは,多様な背景をもつテロ犯罪の流行,地域紛争や宗教的な紛争にともなう人権侵害あるいは難民の大量発生,そして,麻薬・薬物などをはじめとする国際的な犯罪組織の暗躍などといった,各種の国際犯罪の噴出だ。かつての冷戦構造の世界においては,東西の両陣営の内部において強権的に押さえ込まれ,あるいはイデオロギー的に収斂・表出を妨げられていた各種の民族的な利害や宗教的・文化的な志向が,そのたがの外れたことによって生じた(地域的な)権力の空隙を狙って,各種の組織形態をとって自由な活動を開始した,その一つの表れが各種の組織犯罪なのだと見るべきだろう。具体的な犯罪被害は,先進工業諸国において,テロ被害や薬物依存の拡大として注目され,それ自体が新たな社会不安と排外主義的な風潮をもたらしているが,被害は,しかし,実際には欧米諸国以上に中東や東南アジアの諸国において深刻だ。テロ攻撃の矛先はまずもって同じ地域に住む異民族や異教徒に向けられ,外国資本と組んでの天然資源の囲い込みが暴力的に行われ,人身売買の被害者はとりわけてそれら諸国の女性や子供だ。弱体でときに腐敗し未整備な権力機構は地域社会の安定も住民の安全も護ることができず,国境管理も不十分なまま、犯罪組織の活動を野放しにしている。のみならず,紛争により生じた難民を劣悪な環境にさらし,また伝統的な経済構造の崩壊により多数の失業者を生むことによって,犯罪組織の構成員を不断に補充している── これもまた,明白なグローバリゼーションの「成果」とされなくてはならない。 この,圧倒的な雲海に地上のすべてが飲み込まれていくような未来図を前に,われわれはどう抵抗できるのだろうか。気の重くなる2007年の年明けだ。
by kriminalisto
| 2007-01-02 13:03
| 日記・コラム・つぶやき
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