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思いがけない再会

声をかけられて顔を上げると,思いがけない人物が立っていた。T君,相変わらずやせていたが,ノーネクタイのカッターシャツ姿で,にこやかに笑っていた。
勤務する大学の運動部のために新たに開設されたグラウンド等の完成を祝賀する式典の場。まだ真夏のものと変わらない太陽の照りつける中,スーツ姿の一団の中でのことだ。
聞けば彼はこのグラウンドに隣接する県立養護学校で教鞭をとっており,母校の運動部のための施設とはいえ,山林を伐採しての大規模な造成工事に不安を覚えて,大学の施設部局と交渉をもって来たのだという。幸い,彼の危惧したような事態は回避され,かえって,運動部の学生と養護学校生徒との交流の機運もできたりで,結果的には,喜ばしい状況が作られた,とのこと。祝賀会にも招待され,喜んで出席した,と。
具体的な経過を承知していなかったのだが,彼の話を聞きながら,本当にうれしかったのは,一つには,彼をはじめとして養護学校の関係者,あるいは地域の人々との誠実な協議と相互理解の手はずを,われわれの大学関係者が大切にしたことが確認できたことだ。
それともう一つ。T君が自分の天職を見つけ,充実した生活を築いていることを確認できたことだ。

もう10年ほども前のことだ。修士論文を提出したT君が,後期課程には進まないと言っている,と聞いて,研究科の役職にあった僕は彼と面談したのだった。今は亡きY教授の下で憲法を学び,研究者として世に出るための第一関門を通過した段階で,小学校教員になりたいという彼の願望を,しかも合格するかどうかわからぬ教員採用試験をこれから受けるのだという彼の言葉を,僕はあぶなかしげに聞き,後期課程へ進んで大学教員を目指した方がよくはないかと,説得しようとしたのだった── もちろん,説得は成功しなかった。
3・4年後になって,彼が同期のW君(当時はKG大学の民法の助教授になっていた)と結婚したことを知ったときには,「少なくとも大学教員の夫にはなったわけだ」,と密かに納得したことを思い出すが,このことは彼には言うまい。
別れ際,W君は元気かとの僕の言葉に,「実は今,二人目が出来まして」とT君は答えて,はにかんだ表情を見せた。
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by kriminalisto | 2007-09-05 23:51 | 日記・コラム・つぶやき