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『風の影』

通勤の行き帰りの読書の楽しみは,この間しばらくおあずけだった(全般的な気ぜわしさと良い作品の不足のおかげで)のだが,久しぶりの手応えを感じさせてくれる作品に出会ったように思う。この,スペインで2001年に公刊されたカルロス・ルイス・サフォンの小説が,木村裕美さんという優れた翻訳者の手でわが国に紹介されたことの幸運を思わずには居られない(集英社文庫・上下2冊)。
小説の舞台となっているのは,凄惨な内戦の後,ヨーロッパ諸国との奇妙な力のバランスによってヨーロッパの大戦の直接の惨禍を免れたスペイン,バルセロナ。ある日、父に連れられて訪れた「忘れられた書物の墓場」で1冊の本と出会った少年が,まずはその『風の影』という本に魅惑され,その作者の足跡を探すうちに多くの,錯綜する謎につきあたり,またいつしかその作者と自分の運命が似た軌跡を描いていることに気付き,この一冊の本をめぐって,謎の作家カラックスと少年ダニエルとの過去と未来とが交差する――
多くの評者が「ロシア人形」のような,と言っているのはマトリョーシカのことだろう。入れ子細工のような,一つの謎は新たな謎を生み,それはそれでまた次の謎を引き寄せるといったような,ゴダードの小説とも似た作風だ。
こま切れの読書はまだ途中だが,このような作品に出会うと,早く全体を読んでしまいたいという気持ちと,それがあまり早く終わってしまうことが残念で,むしろゆっくりと,いつまでも読んでいたいような,アンビバレントな気持に捉えられる。
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by kriminalisto | 2006-07-29 00:39 | 日記・コラム・つぶやき

まもなく夏休み

小学校が夏休みになったこの時期は,大学は前期末の定期試験で,「夏休みに遊ぶために,今の苦行に耐えよ」とばかりに,学生にとっては大きなヤマ場となっている。教師の場合はもう少し遅れて,その後の採点作業が大きな負担となるのだが,これは人によって様ざま──本当に,試験会場から事務室まで答案を持ち帰る間に採点が終わってしまうような教員も,実に半月以上も,単調な答案・レポートの採点に明け暮れることを余儀なくされる教員もいるのが実情だ。つまりは,科目の性格と受講生の数によって決まってくるわけで,仕方がないとは言え,「同じ賃金を貰っているのに....」と恨めしくなることも。
まあ,それでも,その後に夏休みがあるではないか,と言われるのだが,これがかなりの誤解を含む評なのだ。つまり,開講期間中が授業準備や教材作り,そして教室での精力を絞っての授業,学生の求めに応じての補講や答案の添削,果てはネットを通じての質問への対応に追われるようになった昨今では,継続的なテーマでの研究と思索,原稿執筆に当てられる時間は,ほぼ,夏の休暇時に限られており,この期間にいかに精力的に働くかが,決定的に重要となっている。ある意味では,開講期間中以上に忙しく,精神的には大きなストレスのかかる「休暇」なのだ。
懐かしいのは「むかしの平和」。7月の声を聞くと,教壇で先生が「暑いからもう授業は止めておこう」などと言い,9月の終わりに授業が再開されたかと思うと,すぐ秋になってしまったものだった。多分,正常なのは今の状態だろうが,この余裕のなくなった分だけ,わが国の大学教育は充実したのだろうか。
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by kriminalisto | 2006-07-23 21:39 | 日記・コラム・つぶやき