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南座で「三人吉三巴白浪」

もうとっくに正月気分は抜けているが,それでもこのところ恒例の前進座新春公演。今年の演目は河竹黙阿弥の「三人吉三巴白浪」。大川端の場での國太郎演じるお嬢吉三の「月もおぼろに白魚の」に始まる名科白だけでも,木戸銭の価値はありそうだ。黙阿弥の世話物らしく,入り組んだ因果因縁の物語だが,その発端が伝吉の刀剣の盗み出しと襲ってきた野犬の殺害だったと考えると,何とも暗い話だ──知らぬ間に近親相姦のタブーを犯し,実の兄・和尚吉三に殺され首にされる十三郎とおとせ,救いがない。が,舞台としてはきわめて美しく,とくに大詰めの「本郷火の見櫓」の場では,降り止むことのない雪の中で赤地衣裳のお嬢,黒地衣裳に浅黄襦袢のお坊,表地黒で裏が紫という捕手たちの格好も決まって,大立ち回りの中で幕が閉じられた。
舞台が跳ねた後の懇親会には,わざわざ梅之助が上洛して出席となったのも,昨年秋の梅雀の退座やら何やらについて説明せねば,との気遣いからだろう。だが,そのあたりの事情は大よその見当がついていることで,誰も気にしていない。それでも,来てくれたことは嬉しく,この機会に先日の朝日舞台芸術賞の受賞をお祝いした。 何時会っても,この人は,巧みな話術と細やかな気配り,役者としてだけでなく人間としても「格」のようなものを感じさせられる。
聞きそびれたのは,つまらぬことなのだが,おとせが拾い,お嬢が奪い,和尚がせしめ..... と転々とする百両の「かさ」のことだ。あれではせいぜい切り餅一つ,二五両程にしか見えないのだが。
by kriminalisto | 2008-01-14 12:20 | 日記・コラム・つぶやき
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