役者という仕事

 今年の前進座初春公演は,井上ひさしの『たいこどんどん』。品川遊郭にくり出した若旦那と幇間が,女郎の取り合いから薩摩侍に切られそうになり,逃げようと海に飛び込んで溺れそうなところを助けられたのが,北回りの千石船。風に押されて向かうは東北,そしてはじまる凹凸コンビの珍道中── 15年ほど前に中村梅之助の桃八で上演したことがあるそうだが,僕にとっては,もちろん初めて観る演目だった。今回は嵐圭史の清之助と中村梅雀の桃八だが,この梅雀の桃八は秀逸だった。井上ひさしの連発する駄洒落,掛け言葉,なぞなぞその他の,ときに猥雑な「ことばあそび」を巧みにこなし,踊り,富本節をうなり,軽妙におだてを言うといった幇間芸は,この人ならではの観があった。梅之助では重くなりすぎたのではなかっただろうか。もちろん,想像するだけだが。
 ところが,懇親会の場に現れた梅雀は大きなマスクに熱っぽい顔を隠し,A型インフルエンザに罹って,注射と座薬とで熱を下げながらの舞台だと打ち明けた。翌日朝の公演もあること,挨拶だけで帰ってもらったが,心配なことだ。座員の中には,彼以外にも何人かの患者がおり,次々に寝込み,代役を立てねばならない状態が続いているとのこと。
 それにしても,役者というのは大変なものだ。40度の熱があり,肩で息をしていても,舞台に上がればそんな気配は微塵も感じさせないのだから。しかし,他方では,それも当然かもしれない。主役に代役は居らず,もし彼が舞台に立たないとなれば公演は打ち切り,あと20回近くの公演収入が消えてしまうだろう。単純に計算してみても,南座の座席数が1,086席だから,一回の公演で1,000万円近い売り上げがあり,その何割が劇団側に回るのかは知らないが,いずれにしてもその収益で座と多数の座員の存続と生活をまかなっているのだから。「がんばれ,梅雀」と思わずつぶやいてしまう。

 最近の土曜夜の街の雰囲気はこんなものなのだろう。三条河原町付近も,生活感のない若者たちが,携帯電話を片手に連れ立って歩いているだけ。妻と立ち寄ったバーのマスターに新年の挨拶をし,先斗町を南に抜けて,四条通りでタクシーをひろい,帰宅。
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by kriminalisto | 2006-01-08 11:16 | 日記・コラム・つぶやき
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